初の4ドア! フェラーリ プロサングエでニュージーランドを縦断
ついに登場したフェラーリの4ドア。国際試乗会の開催地、ニュージーランドで試乗した
フェラーリへの離婚届
「フェラーリ(Ferrari)」創業者のエンツォ・フェラーリの死後、23年に渡ってフェラーリの会長を務めたルカ・ディモンテゼーモロが辞任した2014年。当時、80年代のV型8気筒フェラーリに乗っていた僕は「この2ドアのスポーツカーの神髄が変わらないことを、誰がなんといおうと強く願う」と書いたことがある。
あれから10年が経った。エンジン縦置きミッドシップ以外、漢のクルマではない……なんて考える人はいまや誰もいない。そして、フェラーリは、公式でSUVとは謳わないものの、4ドアスポーツの、ちょっと背の高いフェラーリをついに発売した。その名をプロサングエ(Purosangue)と言う。プロサングエはイタリア語で“サラブレッド”を意味する。純血を強調されたフェラーリ プロサングエのシートは、2+2ではなく、4シーター。観音開きのドアを開けると、大人4人が不自由なく着座することができる。
ここで、「ポルシェ(Porsche)」カイエンが登場時になされたという、“これはポルシェなのか?”というような議論をしたいわけではない。というのも、フェラーリオーナーは、すでに何台かのフェラーリを所有していることが多いし、こういったレギュラーモデルを購入しておかないと限定モデルを買える機会が与えられない(らしい)。おまけに、リセールバリューもめちゃめちゃ良いわけだから、資金と買える機会があるなら買っておいたほうが良いに決まっている。今日はどのフェラーリにしようかな、という気分で選ぶ。新たなフェラーリを所有することで、フェラーリのレース参戦を応援することにもつながる。なので、“これはフェラーリなのか?”の議論は違う。
わかっている。わかっている。と思いながらも、マラネッロ初となる4ドアのフェラーリ プロサングエが本当に純血なのかを確かめるべく、ライフスタイル向けの試乗会が行われたニュージーランドへ飛んだ。
ニュージーランド北東を縦断
フェラーリは、世界中からジャーナリストをニュージーランドに呼び、5台のプロサングエでバトンを繋ぎながら広大な大地を縦断するというグランドツアーを開催していた。『Hypebeast』がこのグランドツアーの担当した走行区間は、ニュージーランド北東中部にあるタウポ湖のある街から、北東最南端でニュージーランドの首都ウェリントンまで。この約500kmの距離を、数々の羊と牧草牛に見守られながら2日かけて走った。
いざプロサングエと対面
全長4973mm、全幅2028mm、全高1589mm。堂々たる体躯のボディは、どこを輪切りにしても違う輪郭になるであろう官能的なプロモーション。気流が吹き抜けるような空力的なフォルムであるにもかかわらず、フロント49%、リア51%という理想的な重量配分を実現しているそうだ。このプロサングエが数台並ぶともう圧巻。連なって走行するとさらに圧巻。
彫刻で彫られたような車体ボディのドアをあける。4枚ある。ユニークなのはリアのドア。ウェルカムドアと名付けられ観音開き仕様になっている。リアに座ると、フェラーリの後部座席なのに乗り降りしやすい。思わず微笑んでしまうほどにスッと座ることができた。次に、ドライビングシートに着座する。かつてのフェラーリ乗りは、この高さがフェラーリらしくないと思うかもしれず、ちょっと不思議な感覚。フェラーリに乗っているのに、視点が高いのだ。姿勢もSUVに乗っているのと同じ。その不思議な感覚を覚えながら、ステアリングホイールを握る。エンジンをかける。アクセルを踏む。そうするとどうだろう。この一連の動作ひとつひとつにドキドキさせられるのは、やっぱり跳ね馬ならではだ。プロサングエよ、お前はやっぱりフェラーリだったか。あぁ、いま、新感覚のフェラーリを味わっている。
冷静と情熱を楽しみながら走る
変速は、パドルシフトは無理に使わず8速DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)に任せていた。街中では30km/hほどで進む。郊外の道は80-100km/hほどで走る。軽く踏んでクルージングすると高級セダンのような静かな走りごごち。ただ踏み込むと、3速4速までシフトダウンして、グオンっと吠える。冷静と情熱の間を行き来しながらのドライビングは実に楽しい。いっぽうでエンジン音は、音量より音質にこだわっているらしく、そしてそれが走りと調和するように響いてくる。あぁ、紛れもなくフェラーリに乗っている。クルージングしながらもジワジワと感じ始めてきた。
ステアリングにはダンパーの切り替えボタンがあり、ミディアムとソフトを選べる。確かにソフトにすると多少はまろやかにはなるが、そこはフェラーリ。ソフトであっても、路面の状況をダイレクトに伝えてくるので、このクルマはスポーツカーである。後部座席に座っても、このスポーツカーフィーリングは、ドライバーの緊張ごと伝わってくるので、プロサングエは“快適な4人乗りのフェラーリ”というより、4人全員でスポーツカーフィーリングを味わえるフェラーリ、ということを念押ししたい。
絶滅危惧種の自然吸気エンジンを積む
クルージングしていて、やっぱり気持ちよかった。で、プロサングエの一番の魅力はエンジンだろう。なんてったって、絶滅危惧種のV12の自然吸気エンジンを積んでいる。現行車種だとたしかベンテイガにも12気筒モデルはあったが、あちらはW12でターボエンジン。プロサングエは自然吸気のV12である。高貴な威厳があり、呼び覚ますと激しくパワフルな気性があるこの6.5リッターの馬鹿でかいエンジンを詰めるアーキテクチャーを、よく完成させたと思う。最高出力は、725CV。0-100km/hは3.3秒、0-200km/hは10.6秒。最高速度は時速310kmを超えるという。マラネッロの歴史上、初の4ドアモデルの心臓は、とても大きく、とてもドキドキさせてくれる。
フェラーリへの再婚届
実は、エンツォの時代にも、4ドア・フェラーリの開発をチャレンジしたことがあったらしい。当時は、納得がいかず断念。だが、サスペンション技術の向上により、ついにフェラーリも自信を持って4ドアモデルを世に放てるようになった。今回のプロサングエのサスペンションは、フェラーリ・アクティブ・サスペンションテクノロジーと言い、俊敏性と乗り心地を同時に重視したという。4輪のサスペンションにそれぞれ4基の電気モーターが組み込まれて、他のすべての制御システムと融合。「車体制御」「弾性バランス」「アクティブダウンピング」の3つに重きを置いているらしい。たしかに、ロードホールディング能力と走りの興奮性を引き出してくれている、と信じられる走り心地ではあった。
ただ、このプロサングエを、「快適だ」とは言いたくない。それは無責任だ。どういうことかというと、例えば、ロールスロイスのカリナンのような、路面の凹凸を吸収してシルクの絨毯を走っているような感覚ではなくて、スポーツカーを運転しているぞ、という感覚のサスペンションだ。人馬一体感があって、路面の状況をダイレクトを伝えてくれる感覚。なので、ピュアスポーツカーって言っても良いぐらい、面白いし、何より楽しい。それがプロサングエだ。
雪山でこそ走りたい
このプロサングエを転がしながら思ったことがある。この新作を所有する醍醐味は、家族4人で雪山に行けるということだと思う。雪道をフェラーリで突き進む。かつての低かったフェラーリでは雪山でフェラーリなんて行く気にならなかったから、そういう新しい体験ができる跳ね馬だ。また、今回は、法定速度内でしか走れず、プロサングエの底力はわからなかったけど、もしも所有することがあればぜひサーキットを走ってほしい。24個あるというスピーカーから、ジャズをかけながらサーキットを爆走する、なんて楽しみもこのプロサングエならできるはずだ。じっさいに所有してそうした遊びをすることはなかなか難しいけど、夢見るだけでも楽しいのがフェラーリだ。
Ferrari
Purosangue
ボディサイズ:全長×全幅×全高=4973×2028×1589mm
ホイールベース:3018mm
車重:2033kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:725PS(533kW)/7750rpm
最大トルク:716N・m(73.0kgf・m)/6250rpm
価格:4760万円〜