空力性能抜群のフェラーリ SF90XX ストラダーレの実力は?
1030psのシステム出力を達成したモンスターマシンに、モータージャーナリストの大谷達也が乗った
「フェラーリ(Ferrari)」の象徴といえば12気筒エンジン。だから、「フェラーリ」のラインナップでトップに君臨するのは、いつも決まって12気筒エンジン搭載モデルだった。
その歴史が覆されたのは、2019年にSF90ストラダーレ(ストラダーレはイタリア語で公道の意味)がデビューしたときのこと。カーボンファイバー製モノコックの後方にV8ツインターボエンジンを積み、さらに合計3基の電気モーターで武装したプラグインハイブリッドモデルのSF90ストラダーレは、エンジンとモーターの合計でなんと1000ps(!)を発生。最高速度:340km/h、0-100㎞/h加速:2.5秒という途方もないパフォーマンスで、「“跳ね馬”のフラッグシップ」という称号を12気筒モデルから奪い取ってしまったのである。
それから4年を経て、「フェラーリ」はSF90ストラダーレの高性能版を限定発売することにした。それが、ここで紹介するSF90XXストラダーレである。世界中でたった799台だけが販売されるSF90XXストラダーレは、ベースとなったSF90ストラダーレのエンジンを17ps、電気モーターを13psパワーアップすることで、なんと1030psのシステム出力を達成したモンスターマシン。「えー、たった30ps?!」と思われるかもしれないが、そもそもベースとなったSF90ストラダーレだって、マラネロのエンジニアたちが血の滲むような思いで最高のパフォーマンスを引き出したモデル。そこから、さらに30ps上乗せすることがどれだけ大変だったのか、想像に余りあるというモノだ。
でも、SF90XXストラダーレの本当のすごさは、恐ろしくパワフルなことだけにあるわけではない。いや、それよりももっとすごいのがエアロダイナミクス、つまりは空力性能で、250km/hで走っているときには530kgものダウンフォースを発生するという。ちなみに、ダウンフォースとは風の作用でクルマを路面に押しつける力のことで、タイヤを路面にぐっと押しつけると、その分だけタイヤが路面を捉える力が増えて、つまりはより高いコーナリング性能を発揮できるのである。
これ、実はレースの世界では当たり前のテクノロジー。そう、このSF90XXストラダーレは公道も走れるロードカーだけれども、どちらかというと公道よりはサーキット走行が得意なキャラクターなのだ。というわけで、試乗会が行われたのも、フェラーリが自分たちで所有するテストコースであるフィオラノ・サーキットのみという潔さ。1000psオーバーのモンスターマシンが秘めたるポテンシャルを、自分がきっちりと引き出せるだろうか? そんな不安を抱きながらも、私はSF90XXストラダーレの運転席に滑り込んだ。
走り始めた途端、私の不安は吹き飛んだ。なぜなら、クルマの反応がとても軽くて、ドライバーの操作を素直に受け入れてくれる特性であることが即座に感じ取れたからだ。そんなコントロール性の高さに気を良くしてペースを上げていくと、コースが少し湿っていたせいもあってタイヤの限界にぐぐっと近づいていったのだが、そんなときにはクルマのほうから「いま限界の80%」「もう90%」「おっと95%だよ! そろそろ気をつけて!!」というメッセージがビンビン伝わってくるので、「いつタイヤが滑り始めるか?」をまるで心配することなくサーキットを攻められる。こんなに安心してフィオラノ・サーキットを走れたのは、SF90XXストラダーレが初めてだ。
考えてみれば、SF90XXストラダーレは一般のフェラーリ・ファン(って、どんな人だろう?)が楽しくサーキットを走るために作られたクルマ。だから、クルマの状態を知らせる情報をどんどん発して、ドライバーに思い切って走れる環境を整えることがなによりも大事なのだろう。そしてそう考えると、SF90XXストラダーレがいかに優れたコンセプトとテクノロジーに基づいて作られたかが、とても深く理解できるようになってくる。
「えー、そんなすごいフェラーリ、私も是非、欲しい!」と思った人には、残念なお知らせがある。799台が発売されたSF90XXストラダーレ、発表された今年6月の段階で完売となっていたのだ。実は、同じタイミングで屋根が開くコンバーティブル版のSF90XXスパイダーも599台限定で発売されたのだけれども、こちらも同じく発売時点で完売。1億円を軽く超える価格もそうだけれど、「フェラーリ」はやっぱり「夢のクルマ」だったのである。