藤原ヒロシが手がけるマセラティ・グラントゥーリズモ・ウロボロスについて
藤原ヒロシが、ワンオフのマセラティ・グラントゥーリズモ・ウロボロスをバーチャルでデザインした。なぜデジタルなのか? 実車を買えるのか? 藤原ヒロシ本人が答えてくれた。
2023年11月21日、東京・築地本願寺にて、「マセラティ(Maserati)」の新型グラントゥーリズモをお披露目するイベントが開催された。「Maserati GranTurismo Asia Pacific Premiere」と銘打った催しの華やかな会場で、異彩を放っていたモデルがある。藤原ヒロシがグラントゥイーリズモを独自に解釈してデザインを再構築した、ワンオフのグラントゥーリズモ ウロボロスだ。
このクルマはバーチャルの車両で、専用のブースにおいてデジタル映像で展示された。グラントゥーリズモ ウロボロスのベースとなったのは、グラントゥーリズモ フォルゴーレというマセラティ初となるBEV(バッテリーに蓄えた電気だけで走るピュアな電気自動車)。グラントゥーリズモにはエンジン仕様と、このBEV仕様の両方が用意されるが、より先進的なBEVを選んだのだ。ちなみにフォルゴーレとは稲妻や雷光を意味するイタリア語で、BEVにこの名前を冠するあたりが洒落ている。
興味深いのは、BEVをベースに選んだのに、ルックスはどこか1950年代から60年代のマセラティの名車を彷彿とさせることだ。フロントマスク、リアビュー、そしてアルミホイールに至るまで、このブランドのヘリテージに対するオマージュが感じられる。
会場で、藤原ヒロシ本人にプロジェクトの経緯や販売計画などの疑問をぶつけた。
Hypebeast:このコラボレーションが実現した経緯について教えてください。
2021年の夏頃に僕がデザインしたマセラティの4ドアセダンのギブリを発表したんですが、マセラティから新型のグラントゥーリズモを発表するのでまた一緒にやりたいという話をもらいました。最初はイベントで展示する限りということだったので迷ったのですが、話を進めるうちに、デジタルのコンセプトカーみたいなものであれば自由にデザインできるし面白いのではないかと思い、やってみようかなと。
ヴァーチャルで制作することになったのはなぜでしょう?
ギブリをデザインしたときに学んだのですが、クルマをデザインするって洋服と違ってたくさんハードルがあるし、小さな変更点でもすごく時間と費用がかかる。シートベルトの色を変えるだけでも大変でした。でもヴァーチャルなら、自由にデザインすることができるのではないかと考えたんです。
グラントゥーリズモ ウロボロスのコンセプトを教えてください。
デザインのコンセプトとしては、ヴィンテージカーとテクノロジーの融合。クラシックな見た目でありつつ、最新のテクノロジーを搭載した車をデザインしたいと考えました。でもワンオフのクルマを作るのは、莫大な費用がかかる。デジダルでデザインすることによって自分のやりたいことを最大限表現しつつ、実際に生産したいとは思っていたので、具体的にはシャシーやボディといった基本骨格は変わらず、パーツを交換すれば実現できるようにと常に考えてデザインしました。
グラントゥーリズモ ウロボロスには、マセラティの過去の名車のモチーフが使われていますが、その意図はどこにあるのでしょう?
ギブリをデザインした時に、マセラティのチェントロ・スティーレ(デザインセンター)のデザイナーたちと意見を交換して、パニーニ・ミュージアムというところでマセラティのヴィンテージカーのコレクションを見せてもらいました。その時に、1950年代、60年代の古き良き時代のスポーツカーに感銘を受けたんです。マセラティには、100年以上の歴史と、ヘリテージがたくさんあるなと。今回はギブリの時にできなかったことをやろうという思いもあったし、ギブリはスポーティにしたので、グラントゥーリズモはラグジュアリーでクラシックなカタチにしたかった。イタリアには仕事でよく行くんですが、いまイタリアでイタリア車のプレミアムなセダンを買おうとすると、マセラティしかないような気がします。
洋服やスニーカーのデザインと比べて、クルマのデザインの難しい点はどこにありますか?
安全基準などが厳しくて、できないこともあるし、できるとわかっていることでもとにかく時間がかかります。ギブリの時は2年ほどかかりましたし、今回はバーチャルですが、それでも1年ほどかかりました。
今回はバーチャルで、自由度は高いと思いますが、逆にデジタルのほうが難しい点もありますか?
なんでもできるので、どこまでやるか、どこで止めるかの判断が難しいですね。やっぱり実際に車を作りたいという思いがあったので、できるできないを常に考慮しながら、デジタルにデザインを落とし込む作業でした。
だれが、どこを走ることを想定してデザインしましたか?
僕が東京で乗ることをイメージしました。使い方は特に考えていなくて、雪山は難しいだろうけれど、使い方によってクルマをわけることはしていないので。僕がどこか長距離を走るとするなら、イタリアからスイスに抜けるゴッタルド峠を走ってみたいですね。
ずばり、このクルマを買うことはできるのでしょうか?
オーダーが入ったら制作できる、ということは決まりました。値段とか納期、どのように製造するのかといった細部はいままだ詰めているけれど、オーダーすることは可能になる予定です。やっぱり時間はかかるけど、実現したいですね。
このクルマが路上を走る! 楽しみに待ちたいと思います。ありがとうございました。