壊れたスケートシューズから作品を生み出す謎の新鋭アーティスト You2 の素顔に迫る | On The Rise
彼の2度目となる個展 “Precinct”に合わせてインタビューを敢行
次世代を担うデザイナーやアーティスト、ミュージシャンといった若きクリエイターたちにスポットライトを当てる連載企画 “On The Rise”。第11回目となる今回は、自身の製作したマスクで素顔を隠す謎のアーティスト You2にフォーカスする。
2019年より大阪でその活動をスタートしたYou2は、履き潰されたスケートシューズを解体、構築することで、またそこに新たな息吹を与える気鋭のアーティストだ。作品のマテリアルとなるシューズは、自分自身や繋がりのある人たちが履き潰したもののみを使う。そんなシューズたちの裏にあるストーリーと、日常生活の中で浮かぶリアルなインスピレーションを織り交ぜることで、新たなアートピースを生み出している。東京に拠点を移してからは、2022年4月に『STUDIO 4N』にて行われた自身初となる個展 “ANECDOTE”をはじめとし、〈PUMA(プーマ)〉と〈Diaspora skateboards(ディアスポラ スケートボーズ)〉のコラボシューズ、〈Vans(ヴァンズ)〉のキャンペーン “THIS IS OFF THE WALL”へのアートワークの提供や展示を行うなど、精力的に活動している。また、大阪・堀江のセレクトショップ『SLON(スロン)』にて常時作品を展示しており、ニューヨーク・ヤンキースロゴを模したコラージュ作品のレプリカポスターが即完し話題を呼んだ。
本稿では、今年5月に東京・中目黒のギャラリー『COMPLEXBOOST(コンプレックスブースト)』にて開催された、彼の2度目となる個展 “Precinct”に合わせて、その素顔に迫るべくインタビューを敢行。『Hypebeast』は、本展示の作品群についての話を交えつつ、彼の胸の内に秘めた強い想いや、作品の制作過程など、そのマスクの下に隠された真実を語ってもらった。
Hypebeast:まず、アーティストとして活動し始めたきっかけを教えてください。
You2:きっかけは、大阪のシルクプリント屋さん Wanna studio(ワナスタジオ)のメンバーである先輩方の背中を見て、とりあえず何かクリエイティブなことをしようと思ったことですね。最初は、フィルムカメラで写真や映像の撮影を行なっていました。でも、やっていくうちに違うなとなってしまって……。そのときは、大学2年生くらいで、自分が表現できることかつ、等身大でできるものをひたすら探していた時期でした。アーティストを始めたというよりは、やるべきことを探していたというほうが近いかもしれません。
そこから、スニーカーをマテリアルとして選び、コラージュをし始めた理由は何だったんでしょう?
写真のコラージュを作っている最中に、ニューヨークに行ったときに履き潰したスケートシューズが捨て切れていなかったことに気付いて。その時、ちょうど横にあったので、このスケシューをコラージュに使ってみたらかっこいいかもと直感で思い、すぐに作り始めました。手が勝手に動いていましたね。他の人から見たらゴミくらいに壊れているけれど、僕からしたら思い出が詰まったものだったので、そこにすごく魅力を感じて。そんな格好良さを、作品でも表現したいと思いました。
スケートシューズにしたことにも理由があるんでしょうか?
もちろん物を大事にしたいから、その時期に履き潰したシューズを捨てたくないという気持ちもありました。ですが、先述したように、壊れているシューズに不思議と魅力を感じるんです。僕は、人から新品の物を貰うよりも、おさがりを貰ったほうが嬉しく感じたりするんですよね。僕がその壊れてるスケートシューズとかに抱いてる感情も、そういう感覚に近いかと。あとはもちろん、ルーツにあるということや、スケートが好きという気持ちも大きいですね。
大阪にいた頃からアーティストとしての活動を始めていますが、なぜ東京に拠点を移したのですか?
僕のアイコンにもなっているニューヨーク・ヤンキースの作品が完成した時、自分の等身大となる作品が完成したと思いました。その気持ちは今でも変わっていないのですが、正直に言うと、甘い考えだったというか。就職するかしないかのタイミングでもあって、いつかは行きたいと憧れているニューヨークや、大きい世界で活動したいという思いもあって。だったら、世界的にみても大都市である東京で勝負するのは今しかないと感じたんです。他にも色々と考えはしましたが、大学時代のスケーターマインドが残っていたこともあり、最後は勢いでした。それは今も変わっていなくて、作品に対して頭で考えていても、一定のラインに達すると、勢いで乗り越える部分もあったりします。
You2さんが作品に使っているのは、自分自身や繋がりのある人たちが履き潰したスケートシューズですよね。シューズの持ち主は持ち主は自身がよく知っている人達だと思うのですが、その人柄が作品に影響しすぎることはないのでしょうか?
どうなんですかね? 作品が完成してから、結果影響が強かったというパターンはあるかもしれません。実際に知り合いのシューズを作品にするとき、その時点で相手の影響が強すぎるかもしれないなと思うと、貰わないことの方が多いんです。でも、こうして何でもかんでも集めてない自分に助けられていますね。そこはフラットにやりたいと思っているので、完成した後に影響していたことに気付くのが一番良い形なのかもしれません。
では、作品のインスピレーション源はどこにあるのでしょうか?
インスピレーションというのは、作品ができるまでの初速であり、一番初めの起点だと思うんです。インプットにも似ているというか、製作工程の一部分だと思っていて。それがそのまま最後まで形を保っているかと言われると、そうじゃないと思うんです。それを踏まえて、僕のインスピレーション源は自然にあることがほとんどで。去年の冬に、映像作品の撮影をするためにロケハンに行ったのですが、その過程で木漏れ日や、川、谷といった、自然の壮大さからインスピレーションを受けました。僕の作品でも、自然の持つ美しさを表現したいと思っていて。例えば、森の中に小川があるとして、木漏れ日が差していて、とても気持ちがいい。だけど、その川の反対側は、どんどん川の勢いで岩が削れている。けれど、それは僕の肉眼では確認することができないから、ただそこに美しさを感じていて。さらに川の中を見てみると、魚やカニが生存競争している。そういった部分を抽象的に頭に残しておく。それら事象が、最初のインスピレーションになっています。それと、靴を貰うこともインスピレーションとなるので、前述の2つがマッチしたときに、初めて組み合わせて作品を作っていきますね。
なるほど。そういった考えや自身の作品において、影響を受けたアーティストはいますか?
コラージュをしてみたいと思ったのは、ヤビク・エンリケ・ユウジ(Yabiku Henrique Yudi)くんや、河村康輔さんといった、東京で活躍している格好良い方たちがきっかけですね。Verdy(ヴェルディ)さんのスタイルや、作品も大好きです。それと、あまり僕の作品のスタイルからは連想できないかと思うのですが、彫刻家の土屋仁応さんはとても尊敬していますね。自分でこういう彫刻を作りたいというよりは、この人には敵わないなという感じですかね。土屋さんの儚くも壊れそうな作品群は、僕の作品のテーマである“崩壊の中の美しさ”にギリギリ共通項があると思っています(笑)。目標としている人はステージで変わりつつも、僕にしかできない表現を今も探している途中です。
5月に行われた14作品からなる個展は、全て本展のために用意した新作ですよね。それぞれ、簡単に制作過程やテーマなどを教えていただけますか?
では、まずマスクから。これは、現在RISE(ライズ)で活躍中の加藤有吾選手のマスクを作らせていただきました。元々、人のために作品を作ることは全く考えていなかったのですが、有吾がくれた靴が持つストーリーを聞いて作ろうと決めました。有吾は、アニメのバキのキャラクターであるジャック・ハンマーが好きで。ジャック・ハンマーが原作でAir Jordan 8を履いてトレーニングをしているシーンを見て、有吾もAir Jordan 8をボロボロになるまで履きつぶして練習をしていたんです。僕もバキが好きだし、彼のルーツにアニメがあることや、ファイトスタイルにも共感して。なので、この作品はそういったバックボーンを表現しつつ、有吾が好きな選手を参考に、戦闘という意味で威圧感を出しました。あとは、日本らしさということで、兜の要素を少し加えています。
次は、初めて自分用に作ったマスクです。これまで、誰かにシューズをいただいて、自分の持っているその人のイメージから、解体するまでにラフ画を描いて作り始めることがほとんどで。これは最後までラフが描けずにいて、そういう作品って大体作れなくなってしまうことの方が多いんですが、これは気づいたらこの形になっていて。ラフ画は結局描けなかったのですが、最終的に完成したものを見て、きっと自画像なのかなと思いましたね。形は、僕の好きなものの1つに、源義経が修行した京都の鞍馬寺というお寺があるのですが、そこに出てくる烏天狗をモデルにしました。二面性を出したくて、それぞれ自分の表の顔と裏の顔をイメージしています。紙とでん粉のりを使ってお面を作る技術である張り子を使った他、樹脂を使ったくちばしが特徴的です。
3つ目のマスクは、オナガミズアオという蛾のシルエットを参考にしていて。オナガミズアオは、古代中国や日本で“月の使者”と呼ばれるほど綺麗な、白とライムグリーンの昆虫です。他のものとは異なり、これは頭に乗せるようなかたちで装着することを想定していて。イメージとしては、ティアラや王冠に近いですね。それと、これは今回発表した映像作品でも、主人公の子が着けてくれています。映像作品では一見美しく見えるマスクですが、実は悪夢のようなマスクが頭に取り付いているという設定なんです。見る側からは綺麗ですが、着けている側からすると、マスクが足枷になっている。僕たちの周りにも常に起こりうる、一瞬の接点だけで全てを知ったような気持ちになることを、このマスクと映像作品を使って表現しました。
次に作品について。まず、右側は今回の作品群の中で一番最後に完成した作品です。使っている靴は、PUMAのSUEDE。以前、このモデルでDiaspora skateboardsとコラボしたことから、同様に動物縛りをしたいと思いウサギをモチーフに作りました。不思議の国のアリスのように、この展示に迷い込んでいくようなイメージですね。
左の作品の題名は“Hiasobi”。持ち主はDells Coffee(デルズコーヒー)の高橋遥さんで、作品としては、Nike(ナイキ)のロゴとパイプをデフォルメしたシルエットにしました。パイプでの火遊びという意味と、Nikeという著名なブランドに対する、ある意味で挑戦のような、まだフレッシュにいたいという気持ちを表現した作品です。この靴は、実はスケートシューズとして使っていた訳ではないので、今までとは少し風合いが違った作品になっていて。展示全体としてスケートシューズも残しつつ、そこに囚われることのない新たな見せ方ができたかと思います。
この2つの題名は、“Pink”と“Brown”。どちらも手で描いたようなニューヨークのロゴをイメージしました。3年前、僕のアイコンとなっているニューヨーク・ヤンキースのロゴを作った理由に、ニューヨークのスケートカルチャーを表現したいという気持ちもありつつ、僕の名前のイニシャルがN.Yだったこともあって。今回は、よりその理由にフォーカスして、ドローイングのようなシルエットで作ってみました。1枚目の“Pink”の靴はPAJA STUDIO(パハ スタジオ)のアツシくんからいただいて、彼の人柄や波長がフォルムにも影響しています。2枚目の“Brown”は、より筆記体に似たシルエットで作りました。
中央の大きな球体は、“Precinct”という題名で、この展示の一番のメイン作品です。今回のコンセプトは、相対性理論や、その先にあるM理論、紐理論のような、物理の最先端の学説から引用しています。“Precinct”は、それらから、新品のアウトソールやインソールを集めて、恐怖感の中にある美しさを表現しようと思いました。4層と1層からなる作品は、学説に出てくる素粒子4つと重力子1つをイメージして構想していて。あとは、この世界は全てが多面体で流動的なので、アウトソールの向きを統一しないことで、多面性を表現しました。中央の留め具に使われている紐は、これまでの作品に用いたシューズのシューレースを使っています。
右の題名は、“turn table”。僕の中では、新しい陰陽図の解釈として勾玉のようなフォルムを作りました。Converse(コンバース)Chuck TaylerのCT’70をベースにしているんですが、ここまで履き潰したCT70を今までみたことがないくらいボロボロで。靴の持ち主は大阪・尼崎に住んでいるスケーターの子なのですが、貰ったときの靴のシルエット自体が陰と陽の新しい解釈だと直感で感じたんです。僕は次元と次元の境目や生と死の境目が、陰と陽の重なる瞬間だと解釈していて。その瞬間のイメージとしては、冬のような陰の時間を超えた、春の開花の時期のような。そういう境目みたいなものを、この作品では表現しました。
左は、モデルになっているのはツボスミレというスミレの仲間の花です。ツボスミレは、スミレに比べてすごく花弁が深くて、3次元の奥行きがあるのが特徴で。靴をくれたのは、最初のPUMA Suedeと同じ人。藍染めをしている人なのですが、元々ホワイトカラーだったVansのスニーカーを自分で藍染していて。初めて花をモチーフにしたのですが、ロゴの下や糊付けの部分は白く残っていたので、解体しなければ見えない部分と、ツボスミレの奥行きを表現するときに、見え方を模索しました。
右の靴は、東京発のアパレルブランド Newtral(ニュートラル)を手掛けているルカちゃんのものです。レザーのNike Cortez(コルテッツ)。これは“Hiasobi”のCortezに比べると、すごく女性性を出した作品で、月と鏡のイメージをオブジェクトにしました。よく見ると、シュータンのところにチークが落ちていたり、シルバーのデュブレが付いていたり。裏に付いている取手は、自分で拾ってきたものをスタンドのような形で組み合わせました。
左は兵庫・神戸を拠点に活動しているラッパーのanddy toy store君のスニーカーで、見た通り銃をイメージして作っています。彼のanddy toy storeという名前は、トイ・ストーリーのアンディが元だと思うのですが。なので、バズ・ライトイヤーをほのめかすべく、スペースチックなデザインにしています(笑)。イメージとしては、彼にライブで持って欲しいと思っていて、最初はラッパーが何を持っていたら似合うかを考えました。最終的には、anddy toy store君が所属するHH bushというクルーの皆さんにも似合うように、彼ら仕様の銃を完成させました。これが何というモデルかは、僕も調べたんですが分からず。多分、〈Nike〉のランニングシューズだと思います。
最後の2つは、今回の展示の最後の意思表示ということで制作しました。右側のものは、この展示で一番初めに売れたので、自信に繋がった作品です。親指が立っている逆側にも親指が隠れているという、6本指の中指っていう設定になっています。一度おさらいすると、中指を立てながら親指を立てることには、“Homeysへのラブ”というような意味が込められていて。実は、中指を立てている作品は3年前にもadidasのシューズで作っているんです。それでいて、今回また中指を立てる理由は、ただラブな気持ちだけではなくて、東京に拠点を移したときに持っていた反骨精神を忘れてはいけないなという意味が込められています。死んだスケートシューズを使うことは、僕の等身大になっている気がしていて。自分の中で自信がある作品しか作らないと決めていても、出した後で悔しくなる時もある。そんな部分を全てまとめて6本の指で表現しました。使っているシューズは、Wanna studioの同い年の子のものです。
左の作品は、“Ankh”です。は今回の展示では、次元と次元の境や、天と地など、さまざまな境界線を行き来するのですが、最後はしっかり生命の象徴で終わるようにしました。僕の表現のテーマにもある、暗闇の中から綺麗なものを見つけることや、恐怖の中から美しいものを見つける過程というは、ときに冷たさや怖さを感じたりします。でも、それだけが人生ではないから、最後はある意味で“Peace”に終わろうということを表現しました。これは、この靴の持ち主であるラッパーのSOUI(ソウイ)からもインスピレーションを受けていて。NikeのSPIRIDONというモデルなのですが、SOUIが友だちの喧嘩を止めるためにこの靴を履いたまま川に入っていったというエピソードがあり。そのエピソードも、“Ankh”にした理由の1つです。
今回の展示を行ったことで、初期から現在までにかけてのマインドに変化はありましたか?
直近で言うと、やはり去年のComplexCon(コンプレックスコン)に連れていってもらったことは気持ちに変化があったというか、インパクトが強く記憶に残っています。僕が東京に出てきて、海外に行きたいと思っていたことの第一歩だという気持ちはありつつも、まだまだ足りない部分があることに気づかされましたね。もちろん日々反省することはありますが、ComplexConに行ったことで“井の中の蛙、大海を知る”というある意味でフレッシュな気持ちになれたので、インパクトは大きかったと思います。あとは、上京する前は日常を大切にすることを一番に考えていましたが、東京に来てからは、それだけでなく理想をよりはっきりと持てるようになりました。もちろん、今も日常を大切にしたい気持ちは変わりません。ですが、現在はそのために毎日何かを作り続けて、作り続けるために上昇していきたいと思っています。
最後に、これからの展望がありましたら教えてください。
今回の展示の最中に、ポートフォリオのサイトが完成するので、それを持って改めてアーティストとして再スタートしていけたらと思っていて。海外での活動ももちろん視野に入れていますが、そこは一旦これから考えていけたらと。それと、今回初めて映像作品を作ったので、これからはマスク以外でも自分の世界観を表現していきたいです。展示のために制作したTシャツもそうですし、もう少し立体的な表現をすることや、いろいろな人の目に触れる作品を作っていければと思います。